アクアリウム用の照明と聞くと、まず皆さんは最初にどんな想像をしますか?
熱帯魚の見映えを良くし水草栽培に欠かせない飼育用品、こんなことを連想しますよね。実は照明の役割はごく単純で太陽光の代替品に過ぎません。これがアクアリウムに照明を使う一番の理由です。
サンゴなど満月が産卵のきっかけになる海洋生物がいます。ですが、そもそも満月が月面に照らされた太陽光です。そしてアクアリウムに必要不可欠な水草は光合成なしでは生きていけません。
南米やアフリカ・東南アジア・ブリーディング個体、そして水草と、生育環境や動植物といった違いはありますが、生きるリズムの基本が太陽光です。その代替品である照明の重要性、飼育者が正しい知識や管理方法を覚える大切さ、それがいかに快適なアクアリウムを作る上で大きなウェイトを占めるかが分かることでしょう。
本記事では普段何気なく使いがちな「アクアリウム用の照明」について解説していこうと思います。

水槽照明とは
一般的な60cm規格水槽の満水時重量は約50~60kgです。これに水槽自体の重さが加われば、そうそう日向には移動できません。そのため水槽照明は不足してしまう太陽光をカバーするために開発されてきました。
現在はほとんどがLED式に切り替わり、馴染み深い蛍光灯式は店頭からその姿を消しています。中高年の方なら分かると思いますが、一昔前は水槽照明の全てが蛍光灯式でした。
両者は似て非なるものです。LEDと蛍光灯はそれぞれ「直進光」「散光」という違いがあり、発売当初はかなり問題視されました。というのも、LEDは直進光の名が指す通り光が真っ直ぐに進みます。例えるならレーザー光ですね。蛍光灯にはLEDの様なメリットはありません。しかし散光、つまり光が広範囲に分散する性質を持ちます。海水水槽のサンゴ飼育に使うメタルハライドランプ、通称メタハラという照明もありますが、かなり特殊なライトで淡水にはほぼ使用されません。
発売当初のLED灯は魚の眼や皮膚粘膜を焼かないか疑問視されました。いざ蓋を開けると全く問題なく使用でき、あっという間に照明の主流に躍り出た訳です。水草育成も問題なく行える上に、大抵はリフトアップが付属するので直進光の弱点もカバーしています。
冒頭の説明通り、水槽照明は太陽光の役割を補うものです。熱帯魚や水草の故郷は熱帯・亜熱帯性気候であり、僅かな雨季以外は常に強い日差しが照りつけます。本来アクアリウムは自然の一部分を切り取り水槽内に再現するものです。そのため太陽光に代わる水槽照明を設置することは、自然な流れでしょう。
そしてアクアリウムの主役である熱帯魚と水草は、それぞれ夜行性・昼行性、陰性・陽性といった特徴を持ちます。これらの特徴は、そもそも太陽や水槽照明の光がなければ成り立ないはずです。
水槽照明を設置することでコケや藻などに悩まされる事は確かにあります。それを差し引いても圧倒的にメリットの方が多く、アクアリウム構築に水槽照明は必要不可欠なものと言って良いでしょう。

照明の必要性
ブラインドケーブフィッシュというメキシコの洞穴湖に生息するカラシンをご存知でしょうか。安価で一般的なこの熱帯魚は光が差さない地底湖に適応したため、その眼が皮膚下に埋もれています。このカラシン、実は光の明暗だけは判別可能です。眼が退化しても光だけは拾う、つまり光を感じ取ることは生体にとって何かしらプラスに働くのでしょう。
例えば、不健康の代名詞に使われがちな「夜型(よるがた)」という言葉も「光」がキーとなります。睡眠ホルモン「メラトニン」は目が光を浴びた数時間後に活性化します。日没から数時間後が睡眠に入る平均的な時間です。これが整えば「食事」や「排泄」など、健康に生きる上で欠かすことのできない「代謝」も促進されます。要は規則正しい生活リズムそのものです。
ペットの健康のバロメーターとして「食事」「排泄」「睡眠」の様子を伺いますよね。熱帯魚にも同じことが当てはまります。飼育水をヒーターで温める様に、太陽の光もまた現地に寄せる必要があるんです。これは夜行性の熱帯魚にも当てはまるので気をつけて下さい。昼がなければ、そもそも夜はありません。
そしてアクアリウムに欠かせない水草は、そもそもの事情が違います。
水草を植物という視点から見て下さい。植物は根株から窒素やリンなどの栄養素や水分を吸収します。しかし最も植物が使用するエネルギー、それが光合成の産出物です。二酸化炭素と水から太陽光エネルギーを借り、酸素とエネルギー源の「糖」を作るこの仕組みは人工の光でも行うことができます。シダ植物のミクロソリウムなど、水草でも物陰を好む陰性植物は珍しくありません。この様な水草の仲間でも光は必要です。陽性植物ならなおさらでしょう。
熱帯魚・水草で事情は異なりますが、アクアリウムを始めるには水槽照明を用意した方がより良い環境を長期間楽しむことができるんです。
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照明のメリットデメリット
デメリットとして真っ先に挙がるのが、使い続けることで発生するコケや藻、そして電気代などのコストです。
LED照明の普及でかなり消費電力が減り、電気代はかなり抑えられます。当面の心配はないでしょうが油断は禁物です。LED照明をじっくり見て下さい。パソコン等でお馴染みの基盤に回路が固定されているだけの簡素な造りですよね。当たり前ですが基盤は剥き出しではなく透明な板で厳重に覆われていて、水分を決して通しません。
最も気をつける部分がこの点です。安すぎるLED照明などは作りが甘く水漏れするケースがあるほどです。電気機器が最も嫌う水主体の製品ですから、当然と言えば当然ですよね。
アクアリウム用品に関しては、信頼できるメーカーやそれなりの初期投資をした方が、維持費という点ではお得になります。逆に安すぎる製品は壊れやすいというデメリットがあるので注意しましょう。
もう一つのデメリットはヒゲ状の黒ゴケ・茶ゴケやガラス側面へのコケの付着、藻の大量発生など、水槽の景観を損なうものです。これは昔からの課題であり、ヤマトヌマエビなどの甲殻類・オトシンクルス・ブラックモーリーといった「クリーナー」の導入である程度の対策は可能ですが、最終的にはスポンジや歯ブラシなどでこそげ落とすしかないでしょう。
この様に照明を使うメリット・デメリットは確かにあります。ですが、差し引きしてもアクアリウムシーンに照明は非常に大事な要素です。
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水槽用照明と太陽光の違い

水槽用照明と太陽光の顕著な差は「可視光」の有無です。
LEDライトや蛍光灯は人の眼に見える光、つまり可視光が大半を占めています。逆に太陽光は紫外線・赤外線という「不可視光」まで含みます。空にかかる虹を連想してみましょう。虹の両端はそれぞれ紫色と赤色です。これが人間の眼で捕えることが可能な光の限界です。
爬虫類飼育ではヤモリの仲間を除き、紫外線ライトは必須アイテムです。ビタミンや骨形成に欠かせず、紫外線抜きでは健康な成長を見込めません。赤外線は肌で感じる光です。遠赤外線ヒーター等が良い例で、温度を上げる効果を持ちます。
そして熱帯魚や水草など、アクアリウムの生き物たちは赤外線や紫外線がなくても飼育や栽培自体にほとんど影響はありません。ただ太陽光や紫外線・赤外線を含む照明下で育った熱帯魚や水草は明らかに成長の差を感じます。
眼に映らない全ての光を含むのが太陽光です。その光には俗に言う「色揚げ効果」の役割を備えています。体色が鮮やかになり色味が増すという効果が太陽光には期待できるんです。水草の場合でも結果は同じでしょう。光合成に使う光は本来は太陽光そのものです。そのため、あらゆる光を含む太陽光の方がすくすくと育ちます。
紫外線は人間でいう日焼けの効果を持ちます。そして赤外線には熱帯魚や水草などの表面を暖め、代謝を促進するという大きなメリットが期待できるのです。水槽用照明は太陽光に近ければ近いほど良いと言われ続けてきました。冒頭でも説明しましたが、水槽用照明は太陽の代替品に過ぎません。
もちろんベストな環境は太陽光の元でアクアリウムを作ることです。しかし一見万能に聞こえる太陽光にも不便な点があります。太陽光は自然環境そのものなので、あらゆる動植物、つまり悪玉バクテリアやコケ・藻の発生も促進してしまいます。赤外線は飼育水そのものも温めてしまいます。真夏の酷暑日など屋外の水温は40℃近くまで上昇するケースも実際に経験しました。この2つの問題点は水槽用照明下ではごく僅かです。
飼育スタイルやアクアリウムの環境に応じて、臨機応変に照射時間を変えられる。その様な汎用性の高さもまた、太陽光にはないものですよね。
照明の点灯時間
アクアリウム下の照明の点灯時間に手を焼いた経験を持つ、そんなアクアリストは少なくないでしょう。
閉鎖的な水槽内では、どうしても使える栄養分や物質が偏ります。長く維持し続ければするほど、時間に比例して環境は乱れていきます。
水草は照明が点灯している間は光合成を行い続けます。要は二酸化炭素が減り続ける訳です。二酸化炭素が減る事はプラスに聞こえがちですが、決して良いことばかりではありません。大半のエネルギーを光合成に頼る水草にとって、その原料である二酸化炭素の減少は成長を阻害します。逆に点灯時間が短すぎると十分な栄養が確保できません。
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熱帯魚などのタンクメイトも同じです。点灯時間が長ければ睡眠の妨げになり、短ければ体内時計が狂いやすくなり、餌食いや排泄などの代謝が乱れます。将来的な繁殖や見栄えのする色揚げ効果を期待するなら尚更でしょう。
一般的に水槽用照明の点灯時間は8〜10時間が目安です。熱帯・亜熱帯気候はスコールや雨季などの例外を除くと日照時間は年間を通じてほぼ変わりません。そのため、基本的に2つの気候に合わせた点灯時間が目安です。
気を付けるのはオン・オフの時間を統一することです。たまに飼育者の生活スタイルに合わせ、夜間に点灯させることで昼夜逆転をさせるケースを耳にしますが、あまりお勧めできません。日中はどんなに気をつけても何かしらの光が水槽に届くからです。夜間も同じように考えて下さい。

まとめ
アクアリウムを作るのに大きなウェイトを占める「照明」について深掘りしてみました。
自然界の動植物は太陽の光を基準に生きています。もちろん熱帯魚や水草などアクアリウムの主役たちも例外に漏れません。人間の目線ではなく生体の目線で周りを見渡す、この視点はとても大切なものです。
そしてアクアリウムは照明以外の機器、ろ過機や底砂等の水槽内アクセサリが絡み合い、より良い環境を作り上げます。
照明のメリット・デメリットをしっかりと理解して、複合的に考えてみましょう。本記事が皆さんのアクアリウムづくりのお役に立てれば幸いです。