店頭で見かける綺麗な水草水槽、その多くにCO2添加機器が備わっています。CO2の添加は水草の光合成を促進し健康で色鮮やかに育て上げます。一見難しそうな分野ですが「しっかりとした知識」と「自身に合った添加方法」を選択すれば導入のハードルは意外に容易です。
今回はCO2の種類や選び方を軸とし、CO2添加の基本についてご説明していきます。
CO2添加とは?

エアポンプなどの飼育機器に代表される様に、熱帯魚などの生体メイン水槽では、いかにしてCO2の量を減らすかが重要です。
通常CO2は飼育の妨げになるだけです。ただ「光合成」で自身の栄養と酸素を作り出す水草水槽においてのみ、唯一真逆の作用をもたらします。つまりCO2添加は水草水槽にだけ使用する方法という事が大前提です。
CO2添加を行う目的は…
水草の成長や色合いを促進させる
水槽内ですぐに減少するCO2の補充
大まかにはこの2点につきるでしょう。
光合成には「光」「水」「CO2」の三要素が必要です。いくら水草専用の大掛かりな照明を設置したとしても、CO2が欠けていれば単なるライトアップに過ぎません。そして立ち上げ時や水替え直後の飼育水、つまり水道水には豊富なCO2が含まれますが、閉鎖的な水槽内ではあっという間に減少してしまいます。
この点を補うためにアクアリスト自らが人工的にCO2添加を行う様になりました。国内はおろか海外でも高い評価を受けるADA社(Aqua Design Amano)が、CO2添加機器普及の先駆者です。実は1滴2滴という基準値もルーツはADAブランド独自の表現に他なりません。
現在、後継社の製品もこの「滴」という単位を使いますが、これらは全てADAに倣ったものです。
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CO2添加のメリットデメリット
本来なら必要のないはずのCO2添加。生体の飼育とは真逆の行為であり、水草水槽限定という事で、まずは正確な知識を身につけなければなりません。
また熱帯魚そのものの飼育に比べると、CO2添加を用いた水草水槽構築の歴史はかなり浅いものです。確かにCO2添加用品の価格は一時期に比べかなり安価になりました。とはいえ、学生はおろか社会人でも気軽に手出しできるお値段ではないでしょう。
本項ではそういった基礎知識と共に、導入費用や維持費にも言及した「CO2添加のメリットデメリット」について解説していきます。
CO2添加のメリット
CO2添加には2つの効果があります。
光合成促進
水質を酸性に傾ける
この2点がCO2添加がもたらす効果です。
水草は光と水・CO2から酸素Oと糖・水を作ります。これが俗に言う光合成ですね。人工的なCO2添加はこの光合成を促進させるのが目的です。添加により代謝が進みエネルギー源である糖をたっぷり作り上げた水草は、その成長や色合いが驚くほど増して行くのです。
またCO2を添加すると水素イオンH+の濃度が高くなります。H+が多ければ酸性、少なければアルカリ性というのが化学での決まり事です。光合成の化学式は『6CO2 +12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O』であり、矢印の右が光合成生産物になりますが難しく考える必要はありません。
C6H12O6は水草自身のエネルギー源「糖」であり自身の成長に使われます。O2は酸素、そして水は12H2Oから6H2Oとピッタリ半分になります。もともとH2O(飼育水)は盛んにH+、OH-と水槽内で電離しイオン化しています。H2Oが半分になるとH+が減少すると考えがちですが、実はその真逆なんです。
キッチリと結合したH2O自体が半減しているので。不安定なH2O分子が余る形になり、結果としてH+が増加し飼育水が酸性に傾くという原理ですね。
単純にCO2添加をすると水質は酸性に傾くものと覚えておきましょう。
水草がCO2を吸収しやすいのは「弱酸性」の飼育水です。CO2添加により光合成が更に助長されていくと言う訳です。
水槽という閉鎖環境、特に水草水槽ではあっという間にCO2を使い果たしてしまいます。そうなると光合成が不活性化し水草の生育不良に繋がります。こうなると人工的にCO2を添加するしかありません。
これら一連の事柄がCO2添加がもたらすメリットです。
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CO2添加のデメリット
デメリットは以下の通りです。
酸欠の恐れがある
コストがかかる
事故の危険性
3点それぞれを解釈しましょう。
酸欠について深掘りする必要はありません。小型魚やエビなどのタンクメイトはもちろんですが、水草自体も夜間は呼吸を行います。CO2添加の総量や時間帯を誤ると、酸欠により一気に水槽が全滅する…そんな危険性が生じます。
そして最も頭を悩ますのがお金・コストの面でしょう。水草水槽を立ち上げるアクアリストに社会人が多いのもこれが原因で、CO2添加に必要な器具、そしてCO2ボンベや電気代などのランニングコストすら高額に跳ね上がります。
最も安価なCO2ボンベは約74gの小型ボンベですが、1滴/2〜3秒の平均添加値でも一ヶ月程度で消耗してしまいます。大型ボンベを使う手もありますが、導入ハードルが高い上に、基本的に90cm以上の巨大水槽に使用するものです。逆に初期投資が何倍にも膨れ上がります。最初の1年間で初期投資+維持費は約20,000円以上かかる事を念頭に入れておきましょう。
最後に事故の危険性です。CO2ボンベは制作の過程で圧縮ガスに加工されます。廃棄する際は各自治体の指示に必ず従って下さい。過去には残ガスを抜く際にボンベが破裂した…そんな事故さえ起きているほどです。
CO2添加の種類

そもそもアクアリウム界において水草自体は、熱帯魚の登場と共に初期から販売されています。そしてCO2添加の有用性も幅広く認知されていました。
中学校理科の基礎知識である「石灰石+薄い塩酸」や「炭酸水素ナトリウムの加熱」で発生するCO2を利用するアクアリストもいれば、より安上がりの「ドライアイス」や「市販の炭酸飲料」などで試行錯誤するマニアもいたものです。
ただCO2は空気より重く容器内に沈澱する上に、これらの方法では飼育水内に拡散できる十分な量のCO2の確保は不可能でした。個人アクアリストやADAなどの企業勢が試行錯誤した結果、産み出された方法が以下の4つです。
小型ボンベを用いた方法
大型ボンベを用いた方法
自然溶解式
化学反応式
この4通りのCO2添加方法について、個別にお話ししていきましょう。
小型ボンベ
最も小回りが利き小型水槽から手軽に始められるのが「小型ボンベ」の使用です。ボンベを使用する際に最低限必要な機器は
レギュレーター(ボンベを置く台座)
スピードコントローラー(CO2量の調節)
拡散器(ディフューザー)
の3点で、拡散器側には「エアチューブ」CO2ボンベを設置するレギュレーター側は必ず「耐圧用チューブ」を用います。この他にも「タイマー」や流量を調整する「バルブ」「逆流防止弁」がありますが、ほぼセット販売になるので本記事ではボンベにのみ着目していきます。

小型ボンベのメリット
省スペース
60cm以下の小型水槽にも使用可能
普及度が高いので互換商品が豊富
ボンベ取扱店が多い
設定の簡易さ
スターターキットは1万円台半ばから2万円ほどとやや高額ですが、一度購入すれば買い替える機会はそうそうありません。水槽横に10cm程度のスペースが確保できれば設置可能なので、コンパクト且つ省スペースを維持できます。流量を調整すれば一般的な60cm水槽以下でも十分に使用可能です。
CO2添加と言えば「小型ボンベ」が主流であり基本となります。そのためパーツ一つが欠損したとしてもすぐ買い換えることができ、ボンベ自体も殆どのアクアショップで取り扱っています。
マニュアルや説明書が付属しているので、セッティングもまず失敗する事はないでしょう。もちろん場面場面においてタイマーを導入したり、より性能の良いパーツにも交換できます。
小型ボンベのデメリット
Oリングの劣化による破裂事故の危険性
持続時間の短さ
コスト
まず小型ボンベを取り付ける際はレギュレーターに設置しなければいけません。台座部分が雄ねじになっていて、小型ボンベを回しながら取り付ける際に、そのネジ山で徐々にボンベに穴を空けて行きます。圧縮ガスなので周辺に飛散しないようOリングが標準装備されていますが、これの劣化を見逃すとガス漏れが起こり、小型ボンベが物凄い勢いで宙に舞ってしまいます。
ガラスの破損なども要注意ですが、人に当たると骨折してしまう場合もあるほどです。小型ボンベは約一ヶ月ほどでCO2が切れてしまいます。そのため頻繁に買い替える必要があり、一本数百円とはいえコストもままなりません。
ボンベ交換は出来る限り水槽の近くで行わず、軍手などをつけ身を守る癖をつけて下さい。
小型ボンベには確かにデメリットもありますが、それを上回る使い勝手の良さからNo.1の人気商品です。CO2添加を思い立ったらまず小型ボンベから始めてみましょう。
大型ボンベ
大型ボンベは緑色をしている事から通称「ミドボン」の愛称で親しまれてきました。
酒屋さんのビールサーバーで使用されている業務用ボンベです。アクアショップ以外でも様々な業種で使われているので目にした方も多いでしょう。通常の小型ボンベキットとはボンベの口径が合いませんが、専用のボンベアダプターを入手できればそのまま置換可能です。
大型ボンベのメリット
コスパの良さ
持続時間の長さ
大容量ゆえの交換頻度の少なさ
の3点でしょう。簡単に言えば小型ボンベのアップグレード版という所です。
大型ボンベの総量は5kg、そして小型ボンベは74gとその差は歴然ですね。頻繁に交換する必要もなく約5年間もCO2添加が維持できます。また大型ボンベは基本ボンベの貸し出しという形で提供されています。CO2が無くなれば補充するだけであり、費用も約3,000円とかなりの安価です。
大型ボンベのデメリット
大き過ぎる
価格の高さ
5年ごとの定期点検が義務付けられる
取扱店や入手先の確保
以上の4点です。これがやや厄介で大型ボンベの使用をためらう大きな理由に繋がっています。
大型ボンベは高さ55cm、横幅が20cmという巨大規格であり省スペースには程遠いものです。それに比例し重量も増すので、取り扱うのもかなりの力仕事になります。ガス交換の費用自体は安価ですが、フルにCO2を充填した大型ボンベの初期価格は10,000〜20,000円にまで跳ね上がります。
ここまでは何とかなりそうですが、もう一つの課題が取扱店の少なさです。本来は業務用なのでアクアショップで販売されることすら滅多にありません。
酒屋などでレンタルする方法もありますが、そもそも酒屋がない地域ではどうしようもないでしょう。そして法的にボンベを5年ごとに専門家に点検してもらう義務も生じます。
本格的に水草水槽に取り組むマニアの中には危険物取扱者の資格を取る方もいたほどです。言い換えれば不測の事態の際には、かなりの危険物になるという事です。「水草水槽の魅力に取りつかれたマニア」「CO2添加の最終地点」として名高いのが大型ボンベです。
個人的には趣味の最終地点として位置づけ、生半可な気持ちでの導入は避けるべきだと思います。
自然溶解式
これまでの様な専門的な道具は一切必要なく、手に入れたその日から使える…そんなCO2添加方法がこの「自然溶解式」です。タブレット状のものを水槽に投げ入れ、水に溶ける際にCO2を発生させる原理になります。
自然溶解式のメリット
非常に安価(おそらく最安値)
どんな水槽でも使用可能
といった部分でしょう。水槽内に投入するだけなので思いついたら即日使用可能で、価格も一箱1,000円を超えるものは滅多にありません。
自然溶解式のデメリット
そもそもの効果が薄い
CO2添加量の調節が不可能
の2点です。まず自然溶解式で目に見えるほど水草の様相が変わる…そんな話を聞いた事がありません。効果は気休め程度なので「ないよりは少しはマシ」程度の認識で使用して下さい。
また自然溶解という事は水温や水質の影響で、溶けきるまでの時間にかなりの差が出ます。当然1滴2滴といったCO2の添加単位とは無縁なので、正確性に欠けることも付け加えましょう。

化学反応式
実は水槽内にCO2を添加する方法で、一番最初に取られた方法がこの「化学反応式」です。初期は発酵をベースとしており、途中過程でアルコールが生じていました。現在はクエン酸と重曹の化学反応を応用する方法が主流になり、より安全なCO2添加方法に置き換わっています。
小型ボンベ式に置き換わるCO2添加方法として注目を浴びており、多方面で使い勝手の良さが際立つ添加方法です。
化学反応式のメリット
材料の入手が容易
コストが最安値
廃棄が簡単
この3つです。CO2添加方法としてはメリットが非常に盛りだくさんです。
初期キットは小型ボンベのそれとほぼ同額かそれ以下です。しかもクエン酸と重曹はスーパーやドラッグストアなど、取扱店が多いのも注目すべき点でしょう。
一度2種類の水溶液を混ぜ合わせれば、ボンベの交換は一切必要ありません。ボンベ自体の役割は加圧と化学反応の際の入れ物に過ぎないからです。そのため今までの方法と比べ、かかる費用は最安値となります。
面倒な廃棄作業も化学反応式には不要です。余った残液はそのまま下水に流せるので、特別な方法とは無縁になります。
化学反応式のデメリット
化学反応に基づいた混合液の作成
過剰なスペースを要する
この2点ですね。
有機化学の分野なのでなかなか文字には起こせませんが、反応式自体がかなり複雑です。量を間違えても有害物質が発生する事はありませんが、正しく運用しないと逆にコスト高になるという面倒臭さがある事は確かです。
またボンベ自体の大きさもかなりのものです。2Lペットボトルより一回りも大きくなり、置き場所に困る事もしばしばです。
これらを加味すると小型ボンベと比較し、導入のしやすさという点ではハードルがかなり高くなるでしょう。
ただ初心者の方でも化学に強いアクアリストには、ぜひ導入をお勧めしたい方法です。

CO2添加のポイント
CO2添加は方法次第で飛躍的に効率アップが狙えます。CO2が飼育水に溶け込む効率が高ければ高いほど、水草に対する効果は上がり続けます。
ポイントはこの2つでしょう
きめ細かな泡を出す拡散器(ディフューザー)を使う
CO2を長時間水中に留める
原理は生体に対するエアレーションと同じです。泡の粒が小さければ小さいほど、その気泡は長時間飼育水に留まり、溶け込む効率もアップします。
より便利にCO2を添加する方法も忘れてはいけません。またCO2添加の際の注意点も加えてご説明していきます。
タイマーの使用
CO2添加機器の点検
タイマー自体、近年はほとんどのCO2添加キットに標準装備されていますが、別途購入される場合は特に注意が必要です。
光がない夜間はCO2の添加をストップしなければいけません。水槽内の生体や水草という動植物全てが呼吸にシフトする時間帯だからです。
既にお話しした様に、夜間のCO2添加は水槽全滅に繋がりかねません。まず目視でCO2添加停止の確認、ヒューマンエラーを防ぐためタイマーの導入と考えましょう。
CO2添加の大原則は、照明点灯時にのみ行うという事です。照明連動型のタイマーを使用すれば、より事故を防ぎやすくなります。
そして日頃のCO2添加キットの点検は必ず怠らないで下さい。タイマーの故障やOリングの劣化など、事故に繋がる要因は全て人の目で総点検しましょう。水槽機器全般に言えるのですが、例えばヒーターなど一昔前は「空焚き防止機能」すら無く、寝る前の水温チェックは常識でした。
より安全になった分油断をしてしまい、水槽はおろか家屋や人にまで被害が及ぶケースも実際に発生しています。最後は人の目が一番大切だという事を、大原則に置いてより良いアクアライフを送って下さい。
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まとめ
今回はCO2添加に焦点を当ててみました。
この分野はまだまだ奥が深く、本記事内で伝えきれない事もたくさんあります。
その分アクアリストの創意工夫やセンスが試される未知の分野という事も確かでしょう。
ぜひ読者の皆さんも将来的にコンテストに出せる様な見事な水草水槽を目標にしてみて下さい。