近年、様々な視点から注目を集めている「アクアポニックス」。興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
アクアポニックスは、魚と植物を一緒に育てられる仕組みで、新しい産業として注目度が高いです。
世界的に取り組まれているSDGsの観点からも、持続可能な農業・漁業として将来性を認められ、2025年大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで展示されることも決まっています。
今回は、多くのポテンシャルを秘めたアクアポニックスの仕組みやメリット・デメリットについての解説です。
アクアポニックスとは

アクアポニックスとは、水耕栽培と水産養殖を組み合わせた食料生産技術のこと。アクアカルチャー(水産養殖)とハイドロポニックス(水耕栽培)を組み合わせた造語です。
魚の排泄物を肥料として植物に提供し、植物が肥料を吸収することで水を浄化します。きれいになった水が魚の水槽に戻るという循環システムがアクアポニックスです。
生態系のバランスによって水をリサイクルしながら魚と植物を育てるのが特徴で、生態系の縮図と言われています。
現在は、企業としての取り組みだけではなく、個人でアクアリウムと家庭菜園を両立するツールとしても広がっていますよ。

アクアポニックスの基本的な仕組み
アクアポニックスは、生態系のバランスで成り立っています。具体的にどういうことなのか、その仕組みを見ていきましょう。
アクアポニックスのシステム
アクアポニックスのシステムを順を追って説明します。
- 人が水槽の魚に餌を与える。
- 魚が排泄する。
- 汚れた水を水槽から引き上げ、バクテリアが住みやすい環境に整えた場所(栽培方法で異なる)に送る。
- 水中の排泄物をバクテリアが分解して、植物の栄養に変える。
- 栄養豊富な天然肥料となった4を植物が吸収する。
- きれいになった水を魚の水槽に戻す。
1〜6を繰り返して魚と植物の両方が成長するのです。

排泄物から発生するアンモニアは魚には有害ですが、バクテリアによって硝酸に分解されることで植物の栄養源となります。植物は栄養をもらって成長し、魚は水を無害な状態に浄化してもらうというWin-Winの関係です。
これと全く同じことが自然界で行われています。動物の糞などを土中のバクテリアが分解し、それを植物が吸収して育つという生態系のシステムを水槽に持ってきた形です。
システムにおけるバクテリアの重要性
バクテリアの分解作業なくしてアクアポニックスは成り立ちません。では、重要な役割を果たすバクテリアはどこから来るのでしょう?
アクアリウムをされている方であればお分かりかもしれませんが、バクテリアは餌を求めて自然にやってきます。環境を作っておけば自然に発生してくれるんですね。
バクテリアにはたくさんの種類があって、バクテリアが分解した物質を食べる別のバクテリアがいます。バクテリア間の食物連鎖によってアクアポニックスは成立しているのです。
アクアポニックスを始めるときのポイント
アクアポニックスを始める際に考えるべきポイントについて、以下の6つを解説します。
設置場所
魚・野菜・バクテリアの相性
野菜の種類と規模
育てられる魚
栽培方法
魚と野菜のバランス
設置場所
電気を使うので電源の確保が必要です。
水の補充がしやすく、設備を水平に保てる場所を選びましょう。基本的に水は循環しますが、自然蒸発への対応など補充が必要な場面はあります。
魚・野菜・バクテリアの相性
好む環境(温度帯)が近い者同士は相性が良いです。
バクテリアの好む温度帯と重なる20〜25℃の環境で育つ魚と野菜を選ぶと、育てやすくなります。
野菜の種類と規模
どんな野菜をどれくらい育てるかによって、栽培方法・魚の数・水槽の大きさを決めます。野菜によって必要なスペースや肥料の量が違うからなんですね。
育てられる魚
最初は環境の変化に強い淡水魚が成功しやすいようです。海水魚を育てる研究もどんどん進んでいますが、現状では主に淡水魚を育てることになります。
栽培方法
主な栽培方法は以下の3つです。育てる野菜や設置環境に合ったものを選択することになります。
メディアベッド(ハイドロボールなどの培地を利用したシステムで、家庭用キットにも多く採用される小~中規模に向いている方式)
DWC(水に浮く発泡スチロールなどに植える方法で、多くのアクアポニックス農場で採用されている中〜大規模向けの方式)
NFT(水が流れる筒に穴をあけて植える方法で、根の増殖スペースが狭いため根が広がらない野菜に向く方式)
魚と野菜のバランス
魚の種類や量は、野菜に必要な栄養源を確保できるように選びます。
トマトのような実のなる野菜は、レタスのような葉野菜よりも肥料が多く必要なので、その分多くの餌を食べる魚が必要になるということです。
アクアポニックスのメリット
アクアポニックスのメリットを7つご紹介します。
生産効率が高い
栽培期間が土壌栽培の半分
天候や気温の影響を受けにくく安定した生産が可能
通常の水耕栽培に必要な肥料代が不要
以上の理由から、効率が良い生産方法と言えます。
環境にやさしい
水を循環させるので汚水の排出がなく、化学肥料や農薬を使用しないため環境への負荷が少ないです。水質・土壌汚染やCO2排出といった課題を解決できます。
枯渇している海洋資源の回復にもつながるかもしれません。
オーガニック農法
植物の肥料は、魚から提供される天然肥料のみです。農薬・化学肥料は魚に悪影響なので使用できませんし、なくても成り立つ生産技術なんですね。
100%オーガニックの安全な食材は、誰にとっても嬉しいですよね。
どこでも生産できる
土が必要なく、生産規模を自在に調整できるため、屋内外問わず、消費地に近い場所や荒廃した土地での生産も可能です。
地産地消の実現により、フードマイレージ(食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた指標で、指標が高いほど環境負荷が高いとされる)の削減が期待できます。
水の使用量が少ない
水のリサイクルで通常農業より約80%の節水効果があるとされています。節水によるコストダウンもありますが、水は限りある資源なので、最小限に留めるに越したことはありません。
野菜と魚の両方を収穫できる
野菜と動物性たんぱく質を同時に生産できるという夢のような生産技術です。アクアポニックスの野菜と魚だけで立派な一皿ができます。
実際に、アクアポニックス農園の収穫物をカフェで提供するということも実現していますよ。
労働負荷が小さい
生態系の力で栽培を行うため、一度システムができれば、人はあくまでもサポート役という立場です。
水質管理など育成に必要な作業が省力化され、定期的な重作業もありません。身体的負担が少なく、年齢・性別問わず、長く続けられます。
アクアポニックスのデメリット
メリットが多いアクアポニックスですが、デメリットも3つご紹介します。
認知度が低い
水や海洋資源に恵まれた日本のような国では、浸透が遅れている傾向があり、認知度が低いです。メリットを知らないと付加価値にならないため、適正価格で売れないんですね。
メッセージ性を打ち出して、他の野菜と差別化することが課題になります。
初期投資が必要
システム導入時の費用が必要なため、露地栽培と比較して初期費用が高いです。
水耕栽培の植物工場と比べた場合は、初期投資額は低くなります。
現在は家庭用のキットも販売されているので、自宅で少し野菜を育てる分にはそんなに費用はかからないです。
病害虫対策が必要
化学薬剤が使えないので、有機農業と同様の病害虫対策が必要です。有機農業は病害虫との戦いであると言われるほど、苦労が多いのが現状なのでしょう。
室内でのアクアポニックスであれば、屋外に比べて病害虫の被害が軽減されます。
アクアポニックスで栽培できる野菜

難易度は異なるものの大抵の植物は栽培可能です。
ハーブ(バジル・ミントなど)、葉野菜(レタス・クレソンなど)、実のつく野菜(トマト・トウモロコシなど)、根菜(大根・人参など)などかなり幅広く栽培できます。野菜だけではなく、果物や食用花も育てられていますよ。

まとめ
自然のサイクルを利用したアクアポニックスの仕組みを理解すると、人も生態系の一部なんだと感じますよね。多くの人が自然と人とのつながりを考えるきっかけになるのではないかと思うのです。
アクアポニックスは、環境と健康に良いという2つの大きなニーズを満たしています。今後の私たちの持続可能な食生活を支える仕組みとして、さらに発展することを願わずにはいられません。
家庭用アクアポニックスキットも販売されているので、まずはご家庭から一歩踏み出してみるのも良いかもしれませんね。