

淡水でウツボを飼育できる…にわかには信じがたいですが、2000年代に入り「淡水ウツボ」という名前の熱帯魚が頻繁に入荷するようになりました。
ただこの「淡水ウツボ」は種類により、ガラッと飼い方が変わります。現在店頭に並ぶ正真正銘『純淡水』のウツボはたったの1種類にすぎません。
もちろんどの種類のウツボも魅力が満載であり、一度飼育してみると興味が尽きないでしょう。
本記事では実際に筆者が飼育してきた「淡水ウツボ」と呼ばれる仲間の特徴について、経験談に基づいた解説をしていこうと思います。
淡水ウツボはどんな魚?

熱帯魚店などで見かける淡水ウツボを、大まかに分類すると
イエローフレークモレイ
ヤマウツボ
極端に入荷が少ないレア種
の2種1カテゴリーに分かれます。
ウツボは全世界で約200種いると推測されており、そのほとんどが海で一生を終えるか「汽水域」を生活の場にしています。流通している完全淡水性のウツボはたった1種のみで、この点が淡水ウツボ飼育のキーポイントです。
夜行性であり、加えてあのいかつい顔から一見攻撃的な印象がありますよね。ただダイバーに慣れて餌をねだったり、岩場やライブロックの隙間からこっそりと外界を伺う仕草を見せるなど、本来は臆病で気が優しい魚です。
大半のヒレと全てのウロコが表皮に埋没する変わったフォルムをしていて、表皮表面はウナギのような粘液に覆われており、陸上でも皮膚呼吸を使い30分ほどは生存可能です。
熱帯魚シーンに登場したての頃は純淡水でウツボが飼える!とかなり話題になりました。しかし正真正銘の純淡水で飼育できる1種を除き、本来の流通種は汽水域に住む『汽水魚』が大半です。
それでは早速、種類ごとに淡水ウツボの解説をしていきましょう。
イエローフレークモレイ
別名「イエロースポットモレイ」といい、2000年代周辺から、多種に先駆け「淡水ウツボ」の名で流通が始まった種です。
店頭に出回り始めた初期はとにかく個体の状態が悪く、落ち着いた個体を探すのに一苦労でした。20cm弱の中型個体もいれば、鉛筆サイズの小型個体も多く、飼育のノウハウも確立していなかったものです。
名前の通り状態よく飼い込めば、綺麗な黄色…通称「ゴールドフレーム」に育ちあがります。ですが体色は茶褐色・薄緑色・黄色・ゴールドフレームというように、かなりのバラツキがあり、必ずしも色揚げは成功しません。
特にゴールドフレームは親魚の遺伝に頼る部分が多く、餌や環境に依存しにくい部分があります。
自然界のイエローフレークモレイは東アジアの熱帯海域沿岸…河口域やマングローブ林に好んで生息しています。現地では時折川を遡ることも知られており、小魚や水生昆虫・甲殻類などを捕食する完全肉食性の熱帯魚です。
本種の主な特徴は
汽水域に生息する
最大サイズ30~50cm
値段が安い
の3点が真っ先に思い浮かびます。それぞれの項目を解説していきましょう。
汽水域に生息する
イエローフレークモレイは原則「汽水魚」ということを必ず念頭に置いて下さい。
一説ではサンゴ砂など水質がアルカリ性に向く飼育環境なら、徐々に完全淡水に慣らすことも可能と聞きます。実際に私がイエローフレークモレイを飼育していた環境も、弱アルカリ性の純淡水でした。
ですが後々飼育者たちから寄せられた情報を統合すると、やはり汽水の方が長期飼育に繋がったようです。実際に私自身が飼育した時も、アルカリよりの飼育水とはいえ純淡水では半年ほどで水カビ病にかかり残念な結果に終わっています。
その肌の構造から若干の海水が入り混じる汽水のほうが、健康的な飼育に繋がることは間違いないでしょう。
注意点はいきなり高濃度の汽水を使わないことです。1/10を海水に置き換え調子をよく見てあげ、合わないようだったら2/10・3/10と徐々に濃度を増やすことを心がけて下さい。
最大サイズ30~50cm
ウツボながら巨大化しないのは魅力的ですよね。数字だけ見るとやや大きめでは?と感じがちですが、実際飼育するとほぼ大きさは感じないでしょう。成長速度も非常に遅く、しかも水槽内ではより小型化します。平均で20~30cmで成長はストップするので「でかい」という印象があるウツボとは切り離して考えて下さい。
更に彼らは身体がとても柔軟です。
日中は曲がりくねりながらシェルターに身を潜めるので、60cm水槽でもギリギリ飼育が可能です。そもそもヒレが皮膚下に埋没しがちであり、ウロコに至っては完全に皮膚内部に埋もれています。そのため泳ぎはハッキリ言ってあまりうまくなく、活発に泳がないので大きさに対し小型の水槽が使えるわけです。
値段が安い
私が初めて淡水ウツボを見かけ、衝動買いしてしまったのは正直に言うとお値段が手頃だったからです。約20cm弱のイエローフレークモレイが税抜980円、憧れのウツボが家庭で飼える喜びから、ついつい後先考えずに購入してしまったものです。
現在も価格の変動はほとんどありません。ですが徐々に入荷量が減少傾向にあるので、確実に手に入れたい方はネット通販をお勧めします。
ヤマウツボ(フレッシュウォーターレオパードモレイ)

完全淡水性・純淡水で飼育可能な世にも珍しいウツボです。
分布域はインドネシア・カリマンタン島、アルカリ性の水質はもちろんのこと、酸性水質のブラックウォーターまで幅広い生活圏を持ちます。イエロースポットモレイより数年後ほどたち、熱帯魚シーンに登場し流通が始まりました。
陸封型の魚類です。本来海水域だった部分が地殻変動により海と隔たれ孤立した湖や沼となり、長い年月をかけて純淡水に適応進化を遂げました。
ヤマウツボの主な特徴として…
純淡水で飼育可能
最大サイズ70~80cm
お値段が高め
という点が挙げられます。
純淡水で飼育可能
純淡水で育てられる理由は『陸封型』という独自の進化を遂げたからです。
地殻変動、例えば噴火や地震による隆起などにより、遥か太古にヤマウツボは完全に海から切り離されてしまいます。徐々に塩分が抜けていく過酷な環境に適応した進化を遂げたウツボが『ヤマウツボ』なんです。
最大サイズ70~80cm
特筆すべきはその最大サイズでしょう。
飼育下ではそこまで巨大化はしませんが、野生化では最大約70〜80cmまで成長します。公式記録ではありませんが1mオーバーのヤマウツボが確認されたという話もあります。
いわゆる淡水ウツボの中では最大種で(※ウツボ科最大種は海産のオナガウツボ、平均3m最大4mになります。)
お値段が高め
ここまで説明すると「ぜひ飼育したい!」と考えがちですが、一番のハードルはそのお値段でしょう。サイズや販売地域によりますが、概ねの実勢価格が1万円前後です。時には2万円付近になる高額種なので、お財布と相談した飼育計画を建てた上で飼育に臨んで下さい。
サイズが大きいということは、飼育設備への投資もそれなりのものになります。
極端に入荷が少ないレア種
ざっくりいうと上記2種以外の淡水ウツボです。かなりの飼育困難種である上に、その流通すら数年に1度程度しかありません。
全てが汽水域に住む上に、塩分濃度や最大サイズ・生息環境などの情報がとても乏しく、飼育の基本があまり確立してません。
代表種には
ナミダカワウツボ
ポルカドットモレイ
未記載種
などが含まれます。
ナミダカワウツボ
ナミダカワウツボは太平洋西部からインド洋沿岸と広範囲にかけて生息し、成魚の最大サイズが30cmとウツボの中ではかなりの小型種です。国内では沖縄県西表島にも生息しています。
国内種は絶滅危惧種ⅠA 類に指定されているので、飼うことができるのは全て海外輸入種です。そのためワイルド個体が大半なので、海水の比率がやや高い汽水から慣らしていきましょう。
地味な茶褐色・深緑色の体色をしており、イエローフレークモレイと共通項が多く希少種・輸入に頼るワイルド種という点もあり、安価なイエローフレークモレイを皆さん選びがちなようで、その入荷はごく少数になります。
もちろん西表島に住む本種を採集するのは法に触れるので、気を付けましょう。
ポルカドットモレイ
次にポルカドットモレイです。個人的にショップで見かけたらラッキーなほど流通量が極端に少ないウツボです。特徴的な水玉模様がアクアリストに好まれ、登場初期はコンスタントに入荷されていました。
本種だけでなく一般的に「淡水ウツボ」として売られているウツボは必ず汽水が必要になります。特にこのポルカドットモレイは海水域にも生息するほどなので、その点が飼育のネックとなり流通量が落ちたのではないでしょうか?
最大サイズが約30cmの上に、淡水エイ「ポルカトッドスティングレー」のようなクッキリとしたメリハリのある白いスポットが頭部から尾の先端まで満遍なく入り、観賞用として最も価値の高いウツボです。
未記載種
最後に『未記載種』です。他のウツボの「混じり」で入荷したり、たまたま河口付近にいた海水性ウツボが現地で捕獲されてしまったりと、その原因は多岐に渡ります。
単純にショップで種が判断できない場合でも「淡水ウツボ」あるいは「SPECIES=種」を示す「淡水ウツボ.SP」などとして販売されることがあるので、この手の類は長期間ショップにストックされ状態の良いものを選ぶのがコツとなります。
ウツボは本来かなり頑丈な生き物で、その粘り気のある皮膚を使い地上でも約30分、皮膚呼吸のみで生存可能です。磯の岩場の上を餌を求めて移動することさえあるので、正しい飼育と健康な状態を維持できれば、そうそう落ちてしまうことはありません。
淡水ウツボがオススメなのはこんな人
ではこの一風変わった珍魚『淡水ウツボ』本種の飼育をオススメしたいのは、こんな飼育者です。
仕事が忙しい方
姿が見えなくてもやきもきしない
コンスタントに冷餌・生餌が購入・保存できる
ざっくりと並べてみましたが、このような方たちが淡水ウツボ飼育には非常にマッチしています。
仕事が忙しい方
仕事が忙しい方というのは日中勤務という但し書きがつきます。
というのもウツボの仲間はその大半が海水・汽水・純淡水問わず、夜行性だからです。夜遅く帰宅してもウツボにとってはその時点が目覚めの時間であり、昼行性の熱帯魚と違いウツボと円滑なコミュニケーションを取れるでしょう。
シェルターに潜みがちなウツボですが、活動的になる夜間には泳ぎ回る姿を観察できるかもしれません。
姿が見えなくてもやきもきしない
ウツボの大半が夜行性だとお伝えしました。当然、明るい昼間は彼らの睡眠時間です。
瞼がないので勘違いされがちですが、日中のウツボたちは睡眠…あるいは半覚醒状態なので、滅多に水槽前面に姿を見せてくれません。
夜行性でしかも「負の走光性(光を嫌う陰性傾向の強い種)」を持つウツボ類は、日の明るいうちはあまり鑑賞用に向いているとは言い難いので、事前に頭に入れ自分に向くかどうかを把握しておきましょう。
コンスタントに冷餌・生餌が購入・保存できる
ウツボに総じて言えることが、なかなか人工飼料を口にしないことです。
自然界ではエビやカニなどの甲殻類・小魚などの魚類・イカやタコなどの軟体生物を主食としています。近場のペットショップの冷凍コーナーに「冷凍エビ」「冷凍ワカサギ」「冷凍フナ」などが置いてあるか事前に確認しておきましょう。
AMAZONなどの大手ECサイトや個人店でも通販を行っていますので、そちらを利用するのも良いかもしれません。たまに刺身の切れ端(特にタコ)をあげると、驚くほど激しく食らいつきます。
ただし餌の動きで食欲が刺激されることもあるので、ヒメダカや餌用活エビなどの生餌も視野に入れなければいけません。餌用生体の通販もありますが、哺乳類から始まり鳥類・爬虫類まで対面販売が原則になりつつあるので、法的な将来を考えると規制の対象にもなりかねません。
両生類・魚類の脊椎動物や法に触れない生体の通販はまだ規制対象外ですが、2000年代に入り急速に動物愛護関係の規制は進んでいるので、生餌の購入はなるべくコンスタントに対面購入してください。

淡水ウツボの飼育方法
淡水ウツボの飼育方法は
純淡水ウツボ(ヤマウツボ)
淡水ウツボ(汽水域のウツボ)
の両者で全く異なります。
いくつかの共通項もあるにはありますが純淡水と汽水の差はかなり大きいので、両種はまったくの別物として飼育に挑みましょう。
それではこの2種類の淡水ウツボたちの飼育方法を個別に説明していきます。
純淡水ウツボ(ヤマウツボ)
大半の飼育環境は他の熱帯魚と同じで構いません。
最大サイズ80cmに達するウツボなので強力なろ過機が必要に感じますが、肉厚感がある海水種と比較するとほっそりとしており、マメな換水を怠らなければ上部フィルターでも十分です。
上部フィルターについて詳しく解説した記事はこちら
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最大サイズの数値を聞くと大型巨大種と感じがちですがウツボ全体を見渡すと小型種に位置します。見た目からも分かるように柔軟性に富む体形をしているので、極端な話をすると全長と同じ大きさの水槽でギリギリ飼育することも可能です。
飼育水槽やフィルターなど基本的な飼育設備はこのようなものとなりますが、淡水性とはいえヤマウツボは列記としたウツボの仲間です。飼育に関しては以下の点がネックとなるでしょう。
餌
底砂や水槽内オブジェ
シェルター
これら3点は特別な用意が必要になります。これらの注意点にくわえて、まずは水温やろ過器・水槽サイズなど基本的な事柄からお話していきましょう。
飼育の基本
水槽サイズはヤマウツボの場合だと、全長と同じ横幅(全長60cmのヤマウツボなら60cm規格水槽)で十分です。成長がかなりゆっくりなので、当面はこのサイズの水槽で飼育ができるでしょう。ですが順調に育てば将来的に90cm水槽は必要です。
適正水温は他の熱帯魚と同じく25〜27℃付近で構いません。
目の細かいサンゴ砂・サンゴ岩などをセッティングし、水質をアルカリ性に傾けたほうが良いといわれますが、本種は自然界で酸性水の代表格『ブラックウォーター』水域まで進出するそうです。
ただし高価な魚なので、まずは「目の細かいサンゴ砂」「サンゴ岩」などでアルカリ性よりの水質にしたほうが安全でしょう。海水魚用の「ライブロック」などを敢えて淡水に入れ飼育していた方もいました。
ウツボはウロコは表皮下に埋没しており、体表はウナギのようにぬめぬめしているので、目が粗い底砂や鋭く尖った水槽内オブジェクトは思わぬ事故に繋がりかねません。(※私自身も過去、この点を見落とし1匹の淡水ウツボを死なせてしまいました)
ヤマウツボだけでなく他の淡水ウツボ飼育も同様なので、尖った部分はヤスリがけをしておくとより安全ですね。


餌
餌についてですが、長期間ショップにストックされているかどうかが重要です。その間、十分人工飼料を食べるよう慣らされているかどうか?店員さんに確認してみましょう。
というのも後述しますが、ヤマウツボを初めとした淡水ウツボ類はブリーディングはおろか、水槽内繁殖もほぼ確立していません。そのためいわゆるWB(野生採取個体)がほぼ100%近くを占め、人の手で繁殖されたCB個体の流通は個人的に耳にしたことは皆無です。
そのためヤマウツボに与える餌は「ヒメダカ」「小赤」などの生餌から始まり「冷凍エビ」「冷凍カニ」「冷凍ワカサギ・フナ」などを、導入当初は与えなければいけません。
状態を見ながらの給餌になりますが、与える頻度は日に1~3回程度で構いませんが、夜行性種なのでなるべく夜間に与える方がベストです。激しく食べ散らかすので換水はこまめに行いましょう。
この点、カルキを除去した適温の純淡水がすぐに使える点は、非常に便利です。
実際にショップ店員さんの話を聞くと、冷凍エビ・冷凍ザリガニ・活エビなどを与えると目の色を変え食いつき、他の餌と比べ明らかに食欲が増したそうです。海水魚のころの名残でしょうか、タコやアサリなどの剥き身や刺身に最も強く反応すると聞きました。

底砂や水槽内オブジェ
淡水ウツボだけでなくウツボ科の魚全体に言えますが、表皮が傷つきやすく、ちょっとした傷から水カビ病などの感染症にかかりがちです。
可能な限り鋭利な部分がある水槽内アクセサリは避けて下さい。基本的にアルカリ性を好むので、水質を酸性に傾ける流木はウツボ飼育に不向きです。
健康な成魚でも多魚とのいさかい・相性による小競り合いなど、何かしらのアクシデントはつきものです。思いがけず傷ついてしまう前に、これらの予防策を取りましょう。
最も適した底砂は『サンゴ砂』です。こちらも大型・粗目ではなく、極小の粒目のものを使用して下さい。既にお話ししたように、サンゴ砂は水質をアルカリ性に傾けるので、淡水ウツボ飼育において一石二鳥の役割をしてくれます。

シェルター
シェルターは臆病なウツボにとって必要不可欠な飼育要素です。
ショップで購入するとやや割高になるので、ホームセンターなどで販売されている『塩ビ管』を縛り上げ束にしておくと、気に入った穴に入り込むはずです。
選び方ですがヤマウツボの太さより少しだけ径の大きいものがベストとなります。もちろんショップで販売されているものでも構いません。その際には「表面にざらつきがない」「極端な凹凸がない」といったものを選んでください。
最もコスパが良いのがホームセンターで販売されている『塩ビ管』です。水回りに使用されるので表面は滑らか、かつ凹凸のない理想形をしています。
お値段も100円から数百円くらいなので、ウツボの径(胴周りの太さ)より少しだけ大きめのものを選び、テグスなどでまとめて置くといいでしょう。

淡水ウツボ(汽水域のウツボ)
ヤマウツボと違い、ある程度の海水を必ず必要とする汽水魚です。流通種はほぼ「イエローフレークモレイ」が占めており、いわゆる淡水ウツボの仲間では『汽水』という点をクリアできれば最も飼育が容易でしょう。
他の淡水ウツボも本来は頑健な種ですが、野外採集個体が遠路はるばる輸入されてくるので、初めて熱帯魚シーンに登場したときは目も当てられない状態の個体がほとんどでした。
2010年代ごろから輸入業者もコツをつかんできたのか、そこまで状態が崩れた個体は稀になりました。飼育の基礎は『汽水』以外は全てヤマウツボの項に準じるので、そちらを参考にしてください。
淡水ウツボの飼育において気を付けるべき点は…
飼育水は汽水から始める
水質はアルカリ性を維持
飼育機器を付け足す
の3点だけです。
何度もお話ししますが裏を返せば、この2点以外は「ヤマウツボ」「淡水ウツボ」間の飼育の相違はほぼありません。ただ何故か?長期飼育の話はあまり聞かないものです。
しっかりと初期設備を立ち上げ、長期飼育に挑戦してみて下さい。
飼育水は汽水から始める
極端な話アルカリ性よりの飼育水であれば純淡水でも全然問題なし…と話す飼育者もいるほどです。
もちろん飼育者さんの話も一理ありますが、そのような個体は頑健な成魚がほとんどな上に、良く飼い込まれた個体が大半を占めています。
下記のケースは特に注意が必要です。
淡水(汽水)ウツボ飼育初心者
小型個体
水槽への導入当初
この場合は無難に汽水を用意してあげた方が、確実にウツボにとってプラスになるでしょう。
10cm前の小型個体や購入したばかりのウツボは、大なり小なり疲れが見え、魚病への抵抗力が弱まっています。淡水ウツボを初めて飼育するのなら尚更『汽水』を使ったほうが飼育は上手くいくはずです。
ここでポイントになるのが、純淡水と海水の比率です。
『%』『:』つまり百分率・比率と表記は二通りですが、原理は変わりません。まずは比重が軽い(薄めの汽水)から飼い始めましょう。
というのも、皮膚病にかかりやすい淡水ウツボをいきなり高濃度の汽水に入れたとしたら、浸透圧で皮膚の細かい傷から塩分が急激に体内に入ります。このケースは確実にウツボの衰弱に繋がるので、まずは『10%の汽水』『真水9:海水1』の飼育水を用意して下さい。
その後ウツボの様子をよく観察し、徐々に濃度を濃くする方法がベストです。因みに海水は海水性熱帯魚用の『海水の素』を使用します。
最後に重要な点なのですが、自然界の汽水魚たちは、ほぼほぼ純海水域にも進出します。さらに淡水ウツボはややこしいことに「アルカリ性を維持すれば純淡水でも飼育可能」「海水比率の高い汽水でなければ長期飼育に繋がらない」といった2つの意見があります。
どちらも納得できる根拠があり意見が分かれる難しい部分なのですが、あくまで個人的に言えば『比率の高い汽水』がベストだと感じています。
水質はアルカリ性を維持
既にお話ししてしまいましたが、基本の水質は弱アルカリ性が最も適しています。サンゴの岩礁(※サンゴが死滅し白化したものです)や目の細かいサンゴ砂を用いることは既にお話ししました。
このアルカリ性よりという点は、それほど難しくありません。水槽の水はほったらかしておくと、大体がアルカリ性になります。
細かくpHを計る必要はあるのですが、それは次の『飼育機器を付け足す』の項でお伝えします。

飼育機器を付け足す
単刀直入に説明すると、付け足す飼育機器は全て海水性熱帯魚のものです。
pH測定器
比重計
淡水性熱帯魚の飼育では使用することのない両機器について説明しましょう。
まず『pH測定器』です。pHは水に溶けた水素イオン「H⁺」の濃度であり、H⁺が多いと酸性、少ないとアルカリ性になります。このH⁺の濃度を計測するには『pH測定器』が必要です。
pH7が中性なので概算ですがpH7.5~8.0ほどを維持して下さい。
比重計は単純に淡水に対しての「水の重さの比」に他なりません。昔は水面に浮かべる水温計のようなものを使用していましたが、これが結構判別が難しく苦労したものです。
最近はデジタル表記のものも流通しているので、お好みで選んで下さい。
基本的に海水の比重が1.033で淡水が1.000であり、汽水の比重は『1.004~1.009』の間と定義されています。この数値内に飼育水の比重が納まれば問題なしでしょう。

淡水ウツボを飼育する際の注意点
淡水ウツボの飼育にあたっては幾つかの注意点があります。中にはウツボの命に係わる事柄もあるので、以下の点を十分に気をつけましょう。
脱走
拒食や絶食
混泳魚との相性問題
それぞれの対策や問題点を詳しく解説していきます。
脱走
淡水ウツボ飼育で最も気をつけなければいけないのが『脱走』です。
身の回りの飼育者の間でも、とにかく脱走の話が絶えません。自然界では餌が豊富な磯だまりを求めて、地上を移動するほどの生き物です。
隙間に潜り込むのが大得意であり、大前提として飼育水槽はほぼ密閉する必要があります。エアチューブやろ過器の吸排水口の間など思わぬ部分からも簡単に脱走するので、以下の対策を必ず施してください。
蓋をする
隙間にスポンジなどを埋め込む
簡単に言えば「水槽を完全に密閉する」ということです。ガラス蓋はもちろんですが「上部フィルターと蓋のわずかな隙間」「エアホース・パワーフィルターの給排水ホースの隙間」からでも難なく脱走してしまいます。
これらの隙間はフィルター用のスポンジろ材やウールなどをくまなく敷き詰めて、とことん脱走口をなくすようにしましょう。

拒食や絶食
既にお話ししましたが、淡水ウツボは極端な偏食家です。個体差はありますが購入したての個体はまず、人工飼料に100%餌付くことはありません。
これを念頭に置かず人工飼料を無理強いし、結果拒食や絶食に陥ったケースは確かにあります。意外に神経質な魚なので、移送や水槽内環境からくるストレスでも拒食・絶食に陥ってしまいます。
対策方法として一番適しているのがカニやエビなどの『甲殻類』です。生き餌であれば言うことはありません。
起死回生の最後の策として『タコ』が拒食や絶食には最も有効です。少しお高いですがスーパーなどで手に入れて、一口サイズに切ってから与えてみましょう。
タコを食べなければ病気や飼育環境の問題点が確実にあります。今一度水槽内をじっくり見直してみて下さい。

混泳魚との相性問題
最も混泳に適しているのは同じ汽水魚です。
ただ汽水魚はクセの強い魚が多く、慎重な混泳が求められます。テリトリー意識が強い魚が多いので、相性というより水槽のレイアウトに依存する部分が強くなります。
原則としてヤマウツボのみ淡水性熱帯魚と混泳可能です。
ただし、小型・大型関係なく動作はかなりスローです。そのためプレコなどの吸いつき系の魚には、体表を舐められてしまいます。
甲殻類…例えばヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビ・ロックシュリンプ・カニ類などとの混泳はNGです。自然界でのウツボの主食にあたるので、どうしても混泳させたい場合は餌になる可能性があると割り切るべきです。
同じアルカリ性でもシクリッドの仲間との混泳は結果が目に見えています。縄張り意識が熱帯魚随一のシクリッドは、動作が緩慢な淡水ウツボに必ず攻撃を仕掛けるので、こちらも混泳は避けて下さい。
『サイズ差がない(特に小型種は餌になる)』『攻撃的な魚は避ける』というのが大原則です。
淡水ウツボの混泳について
よく聞かれることが「淡水ウツボは混泳できるのか」という点です。結論から言うと淡水ウツボの性格は見た目とは異なり大人しめ、同サイズの魚であれば全く混泳に支障はきたしません。
ただし、混泳初心者は次の点に気を付けてください。
最初の混泳相手は汽水魚から
シェルター(隠れ家)を増やす
それぞれについて見ていきましょう。
最初の混泳相手は汽水魚から
初心者だけでなくベテランの飼育者も混泳相手は汽水魚がベストでしょう。同じアルカリ性の水質を求め、汽水という点も合致するので淡水ウツボのストレスを軽減できます。
混泳相手の口の大きさも要注意です。例えばアンコウの近縁種「ライオンフィッシュ」や、水鉄砲で有名な「アーチャーフィッシュ(鉄砲魚)」などはかなり口の大きな汽水魚たちです。
しかもサイズ差がある場合、そのひょろ長い体形は彼らの好物であるゴカイ類に瓜二つです。食べられないにしても活発なアーチャーフィッシュには頻繁にちょっかいをかけられ、ライオンフィッシュには丸飲みにされかねません。「ストーンフィッシュ」は毒針をヒレに持つので、混泳は言語道断ですね。
コツは淡水ウツボを主役にし混泳相手を選ぶことです。彼らの性格は見た目とは裏腹にかなり温和で、自分から相手に攻撃を仕掛けることは滅多にありません。
そして同種・他種問わず淡水ウツボは複数飼育が可能です。60CM程度の小型水槽ならば、シェルターやレイアウトにも寄りますが2~3匹、それ以上の大型水槽なら10匹単位での混泳も場合によっては見込まれるでしょう。
しかし何かしらの事故や縄張り争いで喧嘩をする可能性もないとは言えません。淡水ウツボの鋭い歯はお互いに致命傷になりかねないので、隔離水槽は必ず用意し日々の相性観察は決して怠らないでください。
シェルター(隠れ家)を増やす
自然界では滅多に出合わない魚たちを同じ水槽内で飼育することが『混泳』の本質です。当たり前ですが淡水ウツボたちは、かなり混乱するはずです。
これは同種同士にも言えます。
そのため混泳をさせる際は「いざという時の逃げ場」「落ち着くための居場所」として、単独飼育よりシェルターの数は増やすべきです。
単独・単種飼育より更に複雑なレイアウトを組むことが、トラブルを避ける一番の道です。
淡水ウツボの繁殖
繁殖については狙ってできるものではありません。淡水ウツボの繁殖が難しい理由は
雌雄判別が極めて困難
ウナギ目の魚である
というのが最大の要因です。
結論からいうと個人での水槽内飼育はほぼ不可能です。成功例すら耳にしたことがありません。
もちろん、どうしても「淡水ウツボの繁殖」がしたい…そしてお金と労力や時間が十分にある方なら、チャンスは十分にあります。ただそこまでウツボ愛が強い飼育者はなかなかいないものです。
またヤマウツボは「海に下り繁殖をする」という話もあります。この話は調べた限り、どの文献にも載っていなかったので詳細はやや疑わしいでしょう。
本項では参考としてまず、海水性ウツボの繁殖行動をご説明したいと思います。おそらく「淡水ウツボ」との共通点は多々あると思うので、ぜひ参考にしてみてください。
上手く繁殖ができ個体のかけ合わせができるとすれば、ゴールドフレームやポルカトッドなどの美麗個体のコンスタントな作出に期待ができます。そして淡水ウツボたちは総じてウツボの中では小型な種類です。
海水性ウツボの繁殖
実は海水性ウツボの繁殖例も数えるほどしかありません。大型水族館といった専門施設ですら、こと繁殖には手を焼いているのが現状です。
ウツボの繁殖の流れを順を追ってみてみましょう。
オスがメスに接近する
オス・メス両者が口を広げる求愛行動を行う
相性が合えばペアリング
互いに絡み合い産卵・受精行動に移る
産卵行動は7~8月の暖海、夜間に行われます。これが基本的なウツボの繁殖の流れです。
雌雄判別が極めて困難
まず見た目からの雌雄判別は不可能です。
そのためペアを取るには、巨大水槽でかなりの匹数の淡水ウツボを飼育しなければいけません。
そしてウツボはエンゼルフィッシュのように、パートナーを選ぶ魚です。どれだけの数を飼育しても、マッチングし夫婦にならなければ意味がありません。
その分、一度夫婦になったウツボはとても愛情深く、一か月以上もの間、寄り添いあう姿も観察されているほどです。
ウナギ目の魚である
淡水ウツボは『ウナギ目ウツボ科』に属します。新聞やテレビでご存じの通り、ウナギの人工繁殖はまだまだ遠い道のりです。
困ったことに近縁種であるウツボ科の魚にも、ウナギと同じような特徴が当てはまるんですね。
ウナギのように大規模な回遊はしませんが、孵化したての稚魚(別名レプトケファルス幼生)は成魚とは似ても似つかぬ姿をしています。半透明の平べったい身体を持ち「何を食べているのか」「どの様な段階を経て成魚の形になるのか」など不明な点が多いんです。
日本中の学者や公的機関が躍起になっても未だ謎が多い日本ウナギの産卵行動。それより小型である淡水ウツボの繁殖への道のりは、まだまだ遠いものというしかありません。
まとめ
今回は海のギャング「ウツボ」の熱帯魚バージョンこと『淡水ウツボ』について深掘りしてみました。
海に住むスタンダードなウツボも謎が多い生き物です。文中では汽水飼育と書きましたが、アルカリ性の純淡水で長期飼育に至った例もあるほどです。
珍魚中の珍魚『淡水ウツボ』、特に『ヤマウツボ』は正真正銘の淡水魚です。
この少し風変わりな淡水ウツボ、ぜひ見かけたら当記事を参考に飼育してみてはいかがでしょうか。

