ベタは『闘魚』として生息地の文化に根強く残る魚です。2019年にはタイの国魚にも指定されました。品種改良も盛んで目を見張るような種類が次々と誕生しています。ワイルド種を目にする機会も増えました。
安価で丈夫な入門種と言われ続けたベタですが、今は飼育の幅が非常に広がっています。今回は品種改良された種類やワイルド個体、飼育方法、繁殖といったライフサイクルを一挙にご紹介していきます。

ベタの特徴と種類
ベタは低酸素状態に強い耐性を持ちます。これは空気中から酸素を取り入れる事に秀でているからです。その秘密はアナバンティッドの仲間が持つ『ラビリンス』という呼吸補助器官にあります。また野生種・改良品種共に種類が膨大であり、全ての把握は難しいでしょう。野性種は約50種類が発見されていますが、改良品種となると掛け合わせただけ、星の数ほどのベタがいるからです。
特徴
特徴的な器官“ラビリンス”は上鰓(じょうさい)という箇所にあります。内部は毛細血管が幾迷路状に張り巡らされており、英名「labyrinth=迷宮」和名「迷宮器官」と命名されました。
毛細血管が空気に触れる事でガス交換が可能です。この“ラビリンス”があるからこそ、低酸素の小型水槽やボトル内でも飼育可能となります。生息域は年中高温で沼地などの止水域が多く、溶存酸素が極端に少ないので、この様な進化の形を取ったのでしょう。
また「闘魚」の異名を持ち、オス同士はどちらかが死ぬまで争います。そのためオス同士の混泳は不可能です。反対にメス同士は決して争い合いません。オスは鏡に映る自分の姿にも反応するほどです
縄張りに他のオスが侵入すると『フレアリング』という威嚇行動を取ります。鰓ブタから全身のヒレを全て開帳し、侵入者にプレッシャーをかけるのですが、実は人間で言う筋トレの意味合いも含みます。フレアリングを行わない飼育下だと、各ヒレの筋力が落ちてしまいます。そうなるとヒレを開帳しづらくなり観賞価値が低くなるので、鏡を用い日に2~3回のフレアリングを誘発しましょう。
ラビリンス器官を持つグラミーについての記事はこちら
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種類
そしてもう一つのテーマ「ベタの種類」についてです。
大まかに「ワイルド」「改良品種」に分かれます。ワイルドは野生種で、改良品種はワイルドを掛け合わせ、人の手で作出した品種です。
更にワイルド種は50種以上存在し、その繁殖形態で以下の2つに分けられます。
泡巣タイプ
口内保育タイプ
泡を作り産卵や稚魚の世話をするタイプと、マウスブリーディングを行うタイプです。ベタと言えば数百円ほどの安価な種が一般的です。元親はワイルドの「ベタ・スプレンデンス」であり、品種改良したものが良く見かける「トラディショナル・ベタ」となります。一般的に“ベタ”と言えばこの種を指します。
泡巣タイプの代表種はスプレンデンスですが、他には最大全長数cm程度の細身のベタである「コッキーナ」そして10cmを悠に超える大型ベタの「ベリカ」が主流です。ただ幼魚や同サイズ個体の判別は難しく、成魚にならなければほぼ見分けはつきません。
マウスブリーディングタイプは大きく分けて以下の10種類です。
- アルビマルギナータ
- フォーシィ
- アカレンシス
- エディサエ
- アナバトイデス
- ディミディアータ
- ピクタ
- ユニマクラータ
- プグナックス
ワイルドベタの名でまとめて販売されることが多く、正式名称で取り扱うケースは殆ど目にしません。流通自体が乏しく。ショップ店員でも見分けるのは難しいそうです。
両者の違いはその生息域です。口内保育種は河川上流域など清潔な水を好みます。止水域・上流域と全く異なる環境で住み分けをしています。
そして改良品種はそのヒレと体色・模様で分類づけされます。
品種改良されたベタは自然界に存在しないので正式学名を持ちません。そのため商品名…つまりインボイスネームで呼ばれます。大半が英語で名付けられるので名前がそのまま種の特徴を持つのです。
ヒレのタイプは以下のものがベースになります。
- トラディショナル(伝統的な一般種)
- クラウン(各ヒレが細く伸び王冠状になる)
- コーム(くしの様にヒレ先が枝分かれする)
- プラカット(プラはタイ語で「魚」カットは「噛む」最も原種の血が濃い)
- デルタテール(尾ヒレの開度が180°未満に開帳する)
- ダンボ(胸ビレが耳の様に発達している)
体色と模様は下記3通りを原種とし、様々な派生を見せます。
- ソリッド(全身が単色)
- バイカラ―(ヒレと胴体が別色)
- マルチ力ラ―(基本的に3色以上の発色)
これら6種類のタイプのヒレ、そして発色による3通り、単純計算で18通りです。ここに色合いが加わると無限の可能性が出てくるので、基本のバリエーションのみ記述してみました。

ベタがオススメなのはこんな人
ベタ飼育を強くお勧めしたい人は、単刀直入に言えば「物臭な人」や「家を空けがちな人・単身者」でしょう。低酸素に耐えるのはもちろんですが、本来は止水に生息します。そのため他の熱帯魚と比較し水換え頻度をマメに要求しません。
ワイルド種は例外です。基本は安価で止水を好む種類のベタを選びましょう。
単独飼育だと寂しそうに見えます。ただし、ベタは単独飼育の方が寿命が延びる傾向を持ちます。水草水槽など広々とした水槽でも飼育に支障はきたしませんが、その分寿命が短くなる事を覚悟しましょう。
大まかな寿命は以下の通りになります。
小型水槽・ボトルケースなど…約2~3年
水草水槽・他魚と混泳するコミュニティタンクなど…約1~2年
本来の環境を鑑みて、止水域でテリトリーを持つベタは、小型水槽の環境がピッタリなんです。メスは多頭飼い可能なのでこのケースには当てはまりません。オスもまた混泳水槽での他種への攻撃性は殆どありません。
ベタは高水温にも強く、ろ過もほどほどで済み、エアレーションも必要です。小型水槽の場合は水換えもサッと行えます。デスクワークの場合は卓上で楽に飼育できるので、思い切ってオフィス飼育にチャレンジしても良いですね。

ベタの飼育方法
最低限ベタの飼育に必用なものをまとめると
水槽(小型水槽)
人工飼料
水温計
ヒーター&サーモスタット(一体型・プレートフィルターなども可)
フィルター(水流を作らないもの・水換えのみでも可)
小型照明(クリップ型など)
の五項目となります。
最も手に入れやすい『トラディショナル・ベタ』を基準に解説します。
水槽(小型水槽)
まず水槽ですが水草水槽など他魚がいるコミュニティタンクでは寿命が短くなる傾向が生じ、窮屈に見える小型水槽・ボトル飼育の方が長寿になります。ベタは同種のオス以外とは殆ど争わないのですが、その縄張り意識から混泳させるとストレスが溜まる様です。
逆に体長の倍ほどの広さを確保できれば、どんな小型水槽でも構いません。水換えも水量が少ないのでフィルターいらずです。水換え頻度をこまめにし対応しましょう。

人工飼料
餌は小型魚用のフレークフードを与えます。口が非常に小さいので餌付かないようなら冷凍ミジンコやブラインシュリンプから徐々に慣れさせて下さい。

水温計
水温計はどんな種類の熱帯魚でも必須アイテムです。ヒーターについても同じことが言えます。ベタの適正水温は約25~29℃です。

ヒーター&サーモスタット
小型キューブ水槽や30cm以下の水槽などは水量が少ない分、水温調節に手間取りません。「パネル(プレート)ヒーター」で水槽の底から温める形が手っ取り早く効率も良いでしょう。

フィルター
フィルターだけでなく他の水槽器具にも当てはまりますが、基本的にはベタを飼う水槽のサイズに合わせます。小型水槽・キューブ型水槽では無理なフィルターの使用は不要です。そこまでの水量なら、水換え頻度を増やす形で対応しましょう。
水換えの頻度ですがろ過機なし・小型水槽の条件だと、数日に1回、半分ほどの量を目安に行います。
小型照明
水槽照明は可能な限り用意してあげましょう。日ごと月ごとのバイオリズムに繋がるので、より健康な個体に育ち上がります。改良品種には体外光反射で鮮やかになるベタも多く、寄生虫や魚病も早期に発見できます。何より繁殖を目指すシーンでは必要不可欠です。

ベタを飼育する際の注意点
度々登場したラビリンス(迷彩器官)、その役割は呼吸補助器官に過ぎません。頼り切りはかなり危険です。小型キューブ水槽やボトル飼育が可能なベタですが、本来は『魚』という事を忘れないで下さい。
ベタ飼育の際の注意点は以下の通りです。
水換え頻度を怠らない
飼育水が汚れたらすぐ水換えをする
(ワイルド種の場合)飛び出し事故に備える
水位をやや低めにする
水換え頻度や飼育水の汚れについては既にご説明しました。ここで気をつけたいのはワイルド種の性質です。流れのある清流に住むので非常にジャンプ力が強く「飛び出し事故」死に繋がります。
止水域に住むベタの種類ではまず起こりませんが、ワイルド飼育を行う方は必ず蓋をするようにして下さい。
水位を低めにするのは空気中から酸素を取り入れやすくするためです。極端に水位が高いと空気が循環しなくなり酸素が減り続けます。ラビリンスを持つベタですが、やはり呼吸の主体は鰓呼吸です。水中の酸素が多いに越したことはないです。
ただ小型水槽飼育は初めから補助呼吸を前提としているので、より空気が取りやすい環境を提供してあげましょう。
水槽照明について詳しく解説した記事はこちら
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ベタの繁殖
ベタの繁殖における最大の難所は「稚魚の育て方」です。泡巣作りや産卵までは容易に行えますが、孵化した稚魚が小さ過ぎ、要となる初期餌の調達が難しいからです。
一般的なベタ(トラディショナル・ベタ)の繁殖についてご説明します。
生後約4ヶ月で性成熟し、1年半の個体まで繁殖可能です。
オスメスの性成熟の見分け方
オス
水面に盛んに泡を作り始める
泡巣の準備を始める
メス
抱卵時には腹部が膨らみ卵巣が透けて見える
尻ビレ付近に白状突起(産卵管)が観察できる
この状態ならオスメス共に準備完了です。
繁殖環境
いきなり雌雄を同じ水槽に入れてはいけません。相性が悪かったりオスの気が立っているとメスを攻撃してしまうからです。セパレート付きのケースなどで仕切り、1~3日間ほどお見合いをさせましょう。
十分に慣れさせたら30~40cm規格ほどの小型水槽で繁殖を始めます。産卵用水槽の環境は以下の様に作り上げて下さい。
水温約27~28℃
いざという時の隠れ家(メス用)
止水環境(フィルターは投げ込み・スポンジ式)
浮草(カボンバなどを浮かせる形でも可)
泡巣は脆く一度崩れると作り直しが困難です。急流でもバラけるので、可能な限り止水環境を作ります。水面に何もない場合は泡が散らばるので、アマゾンフロッグピッドやホテイソウ、有茎水草の束などを適量浮かせておきましょう。
この頃のオスはかなり神経質なので、水槽のメンテナンスは避けましょう。
共に性成熟していると、オスは自分の泡巣へ産卵するようメスにアプローチをかけます。メスの体に巻きつき産卵管から卵が排出された時点でメスの役割は終わります。育児はオスのみで行うので、これを境にメスを外敵と認識します。
産卵が終わったメスは即座に回収します。
オスは底に沈んだ卵を口で摘み泡巣へと運びます。孵化は約3~4日、遊泳し摂食できるまでが3~4日間、計1週間ほどオスは飲まず食わずで育児につきっきりです。この間、オスに餌を与えてはいけません。食欲を誘発するので食卵や稚魚の捕食、育児放棄に繋がるからです。
1週間後、オスは無事その役目を果たし終えます。その時点で労いをかけてタップリ餌を与えてあげましょう。別水槽への隔離もお忘れなく。
稚魚の育て方
ここまでは簡単な部類ですが、問題は「稚魚の育て方」に尽きます。ベタだけでなくグラミーなどアナバンティッドの稚魚は、余りにも小さく定番のブラインシュリンプでも口に入りません。少し前までは『インフゾリア』を沸かすという、かなり難しい作業が必要でした。
では現在におけるベタの稚魚餌について解説しましょう。用意する方法として…
インフゾリアを沸かす
ゾウリムシの購入
グリーンウォーターでの飼育
以上の3つが代表的です。
最近は実店舗でも“ゾウリムシ”が販売されています。ただ不定期入荷なのでコンスタントな需要に応えられません。一般的なのは『インフゾリアを沸かす』と言う方法です。インフゾリア=ゾウリムシと捉えられがちですが、ワムシ類などの極小プランクトンを含むコロニーを意味します。
一般的な作り方を順番に書いてみました。
良くこなれた飼育水、もしくは河川や用水路・水田や湖沼の水を採取する
大きめの発泡スチロール・プラ船などに採取した水を加える
茹でたほうれん草やキャベツを浮かべる(インフゾリアの多くは植物性プランクトンを捕食するため代替飼料として)
1~2週間放置するとポツポツとした深緑食のコロニーが見られる
スポイトなどで個別容器に移し、植物性人工飼料で手早く増やす
どうですか。読んだだけでかなり難しい作業だと感じますよね。筆者はドワーフグラミーの産卵・孵化まで成功しましたが、インフゾリアは全て腐水に終わり、稚魚が全滅した経験があります。
これをカバーするのが『ゾウリムシ』の直接購入です。Amazonや楽天などでは増やしたゾウリムシをコンスタントに販売する業者がいます。これを元親に子供を産ませることに成功すれば、後は稚魚が普通サイズの稚魚用飼料を食べられるまで待つだけです。
グリーンウォーターも作り方はインフゾリアとほぼ同じです。野外採取水を多めに入れて、日の光に晒します。なるべく大きな容器を用いましょう。水量が多いほど腐敗菌に犯されにくく、インフゾリアの発生率が上がります。
稚魚の育て方はこの様になります。ベタの繁殖は稚魚の育成が最難関と言えます。これを乗り越えれば成功したも同然なので、ぜひチャレンジしてみて下さい。
そして最後の注意点ですが、当然稚魚はやがて成体になります。
その時点で兄弟とはいえオスの同居は不可能です。個別飼育できる環境があればいいのですが、難しい方は予め引き取り先を探しておきましょう。くれぐれも野外遺棄などは絶対に避けて下さい。
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まとめ
今回は東南アジアの闘魚こと、ベタについてまとめて見ました。
飼育水が少量で済むので水換え頻度も負担にならず、その上飼育しやすく豊富な種類を内包する魅力的な熱帯魚です。
水槽の大小にも拘りません。まずは余った水槽に1匹飼ってみてはいかがでしょうか。